主要な眼疾患とその治療法に関する完全かつ包括的な科学的考察
視覚は人間にとって極めて重要な感覚であり、日常生活や社会活動において中心的な役割を果たしている。しかし、現代社会においては、生活様式の変化、デジタル機器の使用増加、高齢化などが影響し、さまざまな眼疾患の発症リスクが高まっている。本稿では、最も一般的かつ重篤な眼疾患を取り上げ、それぞれの原因、症状、診断法、治療法、予防策について、科学的根拠に基づき詳細に解説する。

白内障(はくないしょう)
概要と原因
白内障は水晶体(レンズ)が混濁する疾患であり、加齢性変化が主な原因である。世界中の失明原因の第一位であり、日本においても高齢者の約80%が何らかの白内障の兆候を有するとされている(厚生労働省、2022年)。
その他の原因には、糖尿病、ステロイド薬の長期使用、紫外線の過剰曝露、外傷、遺伝的要因などが含まれる。
症状
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視界がかすむ
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光がまぶしく感じる
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色の見え方が変化する
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夜間視力の低下
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二重視(単眼性複視)
診断と治療
眼科での細隙灯顕微鏡検査によって水晶体の濁りを確認し、視力検査と併用して診断が行われる。
治療は手術が唯一の根本的対処法であり、混濁した水晶体を除去し、人工眼内レンズ(IOL)を挿入する。手術は局所麻酔下で行われ、通常日帰りが可能である。
予防
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サングラスの着用による紫外線防御
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糖尿病のコントロール
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抗酸化物質(ビタミンC、E、ルテイン)の摂取
緑内障(りょくないしょう)
概要と病態生理
緑内障は視神経が慢性的に障害され、視野が徐々に狭くなる進行性の疾患である。眼圧の上昇が主な危険因子とされるが、正常眼圧緑内障も多く、日本人においては全体の70%以上を占めると報告されている(日本緑内障学会、2020年)。
症状
初期段階では自覚症状が乏しく、視野欠損が進行するまで気付かない場合が多い。
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視野の周辺が見えにくくなる
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中心視力は長期間保たれるため発見が遅れる
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頭痛や目の奥の痛み(急性型の場合)
診断
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視野検査(ゴールドマン型またはハンフリー型)
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眼圧測定
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眼底検査(視神経乳頭陥凹の拡大を観察)
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光干渉断層計(OCT)による網膜神経線維層の厚みの測定
治療法
治療法 | 内容 |
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点眼薬治療 | プロスタグランジン製剤、β遮断薬、α作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬など |
レーザー治療 | 線維柱帯形成術(SLT) |
手術 | 線維柱帯切開術、濾過手術、チューブシャント法 |
予防と管理
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定期的な眼科検診(特に家族歴がある場合)
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長期的な点眼治療の継続
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自覚症状の出現前に早期発見が最重要
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)
疾患概要
黄斑部は網膜の中心に位置し、視力を最も高める部分である。この部位が加齢に伴い変性を起こすことで中心視力が低下する。特に日本では高齢者人口の増加に伴い患者数が増加しており、今後の公衆衛生上の課題となっている。
分類
種類 | 特徴 |
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萎縮型 | 徐々に黄斑部の細胞が萎縮し、進行が遅い |
滲出型 | 異常な新生血管が網膜下に発生し、急激な視力低下を招く |
症状
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中心が暗く見える(中心暗点)
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直線がゆがんで見える(変視症)
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色の識別困難
診断と治療
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網膜光干渉断層計(OCT)
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蛍光眼底造影検査
治療法
治療法 | 内容 |
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抗VEGF療法 | アイリーア、ルセンティスなどの抗血管内皮増殖因子製剤の硝子体内注射 |
光線力学療法(PDT) | ビスダイン投与後のレーザー照射による異常血管の封鎖 |
萎縮型の場合 | 有効な治療法はなく、進行予防のためのサプリメント(AREDS2処方) |
糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
概要
糖尿病の長期的な合併症として発症する網膜疾患で、血糖コントロールの不良によって網膜の微小血管が障害される。放置すれば失明に至る可能性がある。
病期分類
病期 | 特徴 |
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単純網膜症 | 微小出血、毛細血管瘤など軽度な変化 |
前増殖網膜症 | 血管の閉塞や軟性白斑が認められる |
増殖網膜症 | 新生血管が形成され、硝子体出血を起こす |
診断と治療
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眼底検査(無散瞳眼底カメラ、散瞳後の詳細検査)
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OCTや蛍光眼底造影検査で血管病変の可視化
治療法
治療法 | 内容 |
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レーザー光凝固療法 | 網膜虚血部位へのレーザー照射で新生血管の発生を抑制 |
抗VEGF注射 | 新生血管や黄斑浮腫への対処 |
硝子体手術 | 出血や網膜剥離に対する外科的処置 |
予防
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血糖値、血圧、脂質の厳格な管理
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年1回以上の眼科検診の励行
結膜炎(けつまくえん)
分類と原因
種類 | 原因 |
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ウイルス性結膜炎 | アデノウイルス、エンテロウイルスなど |
細菌性結膜炎 | 黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌 |
アレルギー性 | 花粉、ダニ、ハウスダストなど |
症状
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目の充血
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かゆみ、異物感
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涙や目やにの増加
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光をまぶしく感じる(羞明)
治療
原因 | 治療法 |
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ウイルス性 | 対症療法、冷湿布、人工涙液 |
細菌性 | 抗菌点眼薬(フルオロキノロン系、アジスロマイシン等) |
アレルギー性 | 抗ヒスタミン薬、ステロイド点眼薬、冷却療法 |
予防
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手洗い・うがいの徹底
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目をこすらない
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コンタクトレンズの衛生管理
総合的考察と今後の展望
視覚障害をもたらす眼疾患は多岐にわたり、それぞれに異なる病態生理、症状、診断法、治療法が存在する。近年では、AIによる網膜画像診断支援や、再生医療による網膜細胞の再生、遺伝子治療など、次世代の眼科医療も進展を見せている。
早期発見と治療の鍵は、国民全体の健康意識の向上と、定期的な眼科受診の習慣化にある。特に日本においては、世界的にも高水準の医療技術と医療機関へのアクセスの良さを活かし、失明予防の取り組みをさらに強化することが求められる。
参考文献
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厚生労働省「令和4年患者調査」
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日本眼科学会編『眼科診療ガイドライン』
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日本緑内障学会「緑内障の疫学と現状」2020
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AREDS2 Research Group. “Lutein + Zeaxanthin and Omega-3 Fatty Acids for Age-Related Macular Degeneration” JAMA, 2013.
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日本糖尿病眼学会『糖尿病網膜症診療の手引き』2022年版
日本の読者の皆様に対し、この情報がご自身やご家族の眼の健康維持に役立つことを願ってやみません。眼は一生の宝。日々の小さな気づきと行動こそが、明日の視界を守る第一歩となるのです。