乳児の皮膚は非常に繊細であり、ささいな刺激でもすぐに炎症やかぶれを引き起こすことがあります。その中でも「おむつかぶれ(おむつ皮膚炎)」は特に一般的であり、多くの保護者が悩む問題のひとつです。本稿では、乳児の「おむつかぶれ(スレ、すなわち“スレて赤くなる皮膚の状態”)」、いわゆる「スレ」または「すまし(関西弁で“すれ”の意)」と呼ばれる症状の原因、予防法、そして医学的にも効果が認められている最新かつ最善の治療法について科学的な根拠に基づいて解説します。
おむつかぶれとは何か
おむつかぶれ(英語では「diaper dermatitis」と呼ばれる)は、乳児の陰部や臀部、太ももの内側など、おむつで覆われる部位に赤みや湿疹が生じる皮膚疾患です。軽度のものではわずかな発赤から始まりますが、悪化するとびらん(皮膚のただれ)や潰瘍を形成し、強い痛みを伴うこともあります。かぶれた部位を触ると赤く、腫れ、熱をもつこともあります。
発生原因
おむつかぶれの主な原因は以下のとおりです:
| 原因 | 説明 |
|---|---|
| 湿気 | 長時間おむつが濡れた状態でいると、皮膚のバリア機能が低下する。 |
| 尿や便による刺激 | アンモニアや酵素が皮膚を刺激し、炎症を引き起こす。 |
| 摩擦 | おむつの素材との摩擦が肌に物理的ダメージを与える。 |
| 細菌・真菌感染 | 特にカンジダ(Candida albicans)による二次感染が多い。 |
| 石鹸や洗剤の刺激 | 過剰な洗浄や不適切なスキンケアが皮膚を傷める。 |
おむつかぶれの分類
おむつかぶれは主に以下の3つのタイプに分けられます:
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刺激性皮膚炎(非感染性):最も一般的。発赤や腫れがみられるが、明らかな感染徴候はない。
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カンジダ性皮膚炎:真菌感染による。境界がはっきりし、小さな赤い点々(衛星病変)が周囲に広がる。
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細菌性皮膚炎:黄色ブドウ球菌などが原因。膿疱やびらんを伴い、場合によっては発熱も。
治療法(医学的アプローチ)
1. 皮膚の清潔と乾燥の徹底
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おむつ交換の頻度を増やす
→ 少なくとも2〜3時間おき。便が出た場合はすぐに交換。 -
ぬるま湯でやさしく洗う
→ 強い石鹸は避ける。洗い流した後はやさしくポンポンとタオルで水分を取る。 -
完全に乾かしてからおむつを装着
→ 湿ったままおむつを付けると、雑菌繁殖の温床になる。
2. バリアクリームの使用
バリアクリームは外部刺激から皮膚を守る役割を果たします。特に有効とされている成分は以下の通り:
| 成分名 | 効果 | 製品例 |
|---|---|---|
| 酸化亜鉛(Zinc oxide) | 皮膚のバリア形成、炎症抑制 | ドゥーエ ベビープロテクトクリーム、ベビーパウダー |
| ワセリン | 保湿・保護・摩擦軽減 | ヴァセリン、プロペト |
| パンテノール(プロビタミンB5) | 肌再生促進・抗炎症 | ベビーピュア、ビオデルマ |
これらはおむつ替えのたびに薄く塗布することで予防・治療に役立ちます。
3. カンジダ感染時の抗真菌薬使用
おむつかぶれがカンジダによるものであれば、抗真菌薬の外用が必要です。医師による診断が必要ですが、代表的な薬には以下のものがあります:
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ミコナゾール硝酸塩(ダクトリン)
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クロトリマゾール(ロート antifungal cream)
これらは1日2回、清潔な患部に塗布します。通常は数日で改善しますが、1週間以上続く場合は再受診が必要です。
4. ステロイド外用薬の慎重な使用
炎症が強い場合、医師の指導のもとで弱いステロイド(ヒドロコルチゾンなど)が短期間使われることがあります。しかし、長期使用や誤用は皮膚を薄くしたり、色素沈着を招くため、使用には厳重な注意が必要です。
民間療法とその科学的評価
多くの家庭で使用されてきた「ベビーパウダー」や「お茶の葉の煎じ汁」「母乳」などの民間療法がありますが、科学的には一部に限定的な効果が認められているにとどまります。
| 民間療法 | 科学的評価 | 備考 |
|---|---|---|
| ベビーパウダー(タルク) | 使用は推奨されない | 吸い込むと呼吸器疾患の原因になる可能性あり |
| 緑茶抽出液 | 抗酸化作用はあるが効果は限定的 | 商用製品の使用が安全性の面で望ましい |
| 母乳 | 抗体やラクトフェリンの作用あり | 軽度のかぶれには一定の効果ありとの報告も |
予防策の確立
おむつかぶれを防ぐためには、日々のケアが最も重要です。以下に予防のポイントをまとめます。
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高吸収性のおむつを選ぶ:通気性が高く、速乾性のあるものを。
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サイズの合ったおむつを使う:きつすぎると摩擦や湿気が増える。
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おむつフリータイムを設ける:1日数回、15〜30分程度おむつを外す。
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皮膚に優しい洗剤を使用する:衣類やタオルに残る成分が刺激となることがある。
合併症と受診のタイミング
以下のような兆候がみられた場合には、自己判断でのケアをやめ、小児科または皮膚科を受診することが推奨されます:
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発疹が広がっている
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膿やかさぶたがある
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高熱が続く
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おむつ交換時に赤ちゃんが強く泣く
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2週間以上改善がみられない
まとめ
おむつかぶれは乳児にとって非常につらい皮膚疾患ですが、適切なケアと迅速な対応によって、短期間で改善することが可能です。常に皮膚の状態に注意を払い、早期の予防と治療を心がけることが大切です。バリアクリームの使用やこまめなおむつ交換、適切なスキンケアが最も重要なポイントとなります。また、必要に応じて医療機関の指導を受けることで、重症化を防ぐことができます。
科学的根拠に基づくケアを実践し、赤ちゃんの笑顔を守るために、保護者一人ひとりが知識を深め、日々の生活に役立てることが求められています。
参考文献:
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Atherton DJ. “The aetiology and management of irritant napkin dermatitis.” J Eur Acad Dermatol Venereol. 2001.
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Friedlander SF, et al. “Diaper dermatitis: Clinical manifestations and diagnosis.” UpToDate, 2024.
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Visscher MO. “Diaper dermatitis: current concepts.” Pediatric Dermatology. 2009.
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日本皮膚科学会「小児皮膚の疾患とケア」専門医向け資料(2023年改訂)
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厚生労働省「子育て支援医療ガイドライン」2024年度版
赤ちゃんの健やかな成長のために、科学と愛情の両方が求められます。

