尿培養検査(にょうばいようけんさ)は、泌尿器系に感染を引き起こす細菌や酵母などの病原体を特定するための非常に重要な検査である。本検査は、特に尿路感染症(UTI)が疑われる患者において、感染の原因となる微生物の同定と、それに対する抗菌薬感受性を評価する目的で実施される。尿培養の結果は、感染症の確定診断と適切な治療方針の決定に不可欠であり、泌尿器科、内科、小児科、婦人科など多くの診療科において日常的に活用されている。
尿培養検査の意義

尿路感染症は、膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎などさまざまな病態を含む。特に女性や高齢者、糖尿病患者、カテーテル留置中の患者では、尿路感染症のリスクが高まる。尿培養検査は、症状だけでは特定できない病原体の種類を明らかにし、再発例や難治例においては、標準的治療が効かない背景にある耐性菌の存在を発見するためにも不可欠である。
検査の手順
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採尿方法の選択
検査の精度を左右する最も重要な要素は、正確な採尿方法である。主に以下の方法が用いられる:-
中間尿採取(midstream clean catch):最も一般的な方法で、最初の尿を捨てた後に中間部分を無菌容器に採取する。外陰部や尿道口を清拭した後に行う。
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導尿による採取:自然排尿が困難な患者に対して行う。滅菌済みのカテーテルを使用する。
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留置カテーテルからの採取:長期間カテーテルを留置している患者では、カテーテルの接続部から直接採尿する。
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膀胱穿刺(suprapubic aspiration):乳幼児や重度の感染症が疑われる際に稀に実施される、針を用いて直接膀胱から尿を採取する方法。
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培養操作
採取された尿は、直ちに微生物検査室に送られ、血液寒天培地やMacConkey寒天培地などの選択培地に接種される。通常、35〜37°Cで24〜48時間インキュベーションが行われ、細菌の発育状況を観察する。 -
コロニーの同定と計数
発育したコロニーからグラム染色や生化学的試験、場合によっては質量分析(MALDI-TOF)を用いて菌種を同定する。また、1ミリリットルあたりのコロニー形成単位(CFU)を計算し、感染と汚染を区別する。菌数(CFU/mL) 臨床的意義 <10³ 通常は汚染と判断されることが多い 10³〜10⁵ 判定は臨床症状や採尿法と併せて総合的に評価 >10⁵ 感染の強い可能性を示唆する -
抗菌薬感受性試験(Antimicrobial Susceptibility Testing, AST)
同定された菌株に対して、ディスク拡散法(Kirby-Bauer法)やMIC測定によって、抗菌薬への感受性が評価される。これにより、適切な治療薬が選択される。
検査結果の解釈
尿培養検査の結果は、患者の年齢、性別、基礎疾患、臨床症状、採尿方法に応じて慎重に解釈される必要がある。たとえば、以下のような状況では注意が必要である:
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複数菌種の検出:通常は汚染の可能性が高いが、免疫抑制状態や長期留置カテーテル患者では真の感染の可能性もある。
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無症候性細菌尿(ASB):症状がないにもかかわらず細菌が検出される状態。妊婦や泌尿器手術前以外では治療を必要としないことが多い。
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再発感染と再燃:同一菌種が繰り返し検出される場合は、治療効果が不十分であったか、耐性菌が原因である可能性がある。
主要な病原菌
尿路感染症の起因菌として最も一般的なのは大腸菌(Escherichia coli)である。他にも以下の菌種がしばしば検出される:
菌種 | 特徴と感染リスク |
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E. coli | 最も多い。特に女性の膀胱炎に多い |
Klebsiella spp. | 医療関連感染で多く、抗菌薬耐性株が増加中 |
Proteus mirabilis | 尿路結石と関連することが多い |
Enterococcus faecalis | 高齢者や医療介入患者で多い |
Pseudomonas aeruginosa | 重症患者や長期カテーテル留置患者で検出される |
臨床応用と抗菌薬選択
尿培養の結果は、適切な抗菌薬の選択に直結する。たとえば、ESBL(基質特異的β-ラクタマーゼ)産生菌が検出された場合、第一選択としてカルバペネム系薬剤が使用されることが多い。逆に感受性のある菌が検出された場合は、ナロースペクトラムな抗菌薬(たとえばアンピシリンや第一世代セファロスポリン)での治療が推奨され、耐性菌の拡散を防ぐ意味でも重要である。
検査の限界と今後の展望
尿培養にはいくつかの制限が存在する。たとえば、迅速性に欠ける点(通常結果判明まで48時間)や、偽陽性・偽陰性の可能性がある点、また一部の菌種(嫌気性菌や特殊な酵母)では検出が困難であることが挙げられる。
しかし近年、リアルタイムPCRや次世代シーケンシング(NGS)技術の導入により、より迅速かつ高感度な病原体同定が可能となりつつある。これにより、将来的にはより精緻な個別化医療が実現されることが期待されている。
結論
尿培養検査は、尿路感染症の診断と治療における中心的な役割を担っており、正確な採尿、適切な検査操作、緻密な解釈が必要である。抗菌薬耐性の増加が世界的に問題となる中で、尿培養はその対策の第一歩として、今後ますます重要性を増すであろう。患者の予後改善のためには、医療者による正しい検査理解と、検査結果に基づく合理的な抗菌薬使用が求められている。
参考文献
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日本化学療法学会. 「尿路感染症診療ガイドライン」2019年版
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日本感染症学会. 「感染症専門医テキスト」第3版
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Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI). Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing.
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Hooton TM. “Uncomplicated Urinary Tract Infection.” New England Journal of Medicine, 2012.
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Wagenlehner FM et al. “Urinary tract infections.” Nature Reviews Disease Primers, 2018.