血中尿素窒素(Blood Urea Nitrogen:BUN)検査は、腎臓の機能を評価するために広く用いられている基本的な血液検査の一つである。尿素は、体内のタンパク質代謝の過程でアンモニアから生成される老廃物であり、肝臓で尿素に変換された後、腎臓を通じて尿中に排出される。このため、尿素の血中濃度は、肝臓の代謝機能と腎臓の排泄機能の両方に影響される。BUN検査は主に腎機能の評価に使用されるが、同時に水分バランス、肝臓の状態、タンパク質の摂取量、心機能の状態など、全身状態の評価にも寄与する。
尿素とその生成メカニズム
体内において、タンパク質が消化・代謝されるとアミノ酸が生成され、これらの一部はさらに分解されてアンモニアを産生する。アンモニアは毒性が強いため、肝臓において尿素サイクル(オルニチン回路)を経て尿素に変換される。この尿素は水に溶けやすいため、血液に溶解し、腎臓に運ばれて糸球体でろ過され、尿中に排泄される。腎機能が正常であれば、血液中の尿素濃度は一定範囲内に保たれる。

BUN(血中尿素窒素)値の基準と測定方法
BUNは、尿素に含まれる窒素成分の濃度をmg/dLで測定したものである。一般的な基準値は以下の通りであるが、年齢や性別、検査機関によって若干の差異がある:
年齢層 | 基準値(mg/dL) |
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成人 | 8〜20 |
高齢者 | やや高値になることがある(〜23程度) |
小児 | 5〜18 |
測定には血液検体が用いられ、通常は空腹時に採血される。近年では、酵素法による自動分析が主流であり、簡便かつ迅速に測定可能である。
高値(BUN上昇)の原因と解釈
血中尿素窒素値が高値を示す場合、その原因は大きく3つのカテゴリに分けられる:
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腎前性(腎臓に到達する前の問題)
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脱水症状(循環血液量の減少による腎血流低下)
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心不全(腎灌流の低下)
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高タンパク質食の摂取
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消化管出血(特に上部消化管出血における血液の消化によるタンパク質負荷)
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腎性(腎臓自体の障害)
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急性腎障害(AKI)や慢性腎臓病(CKD)
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糸球体腎炎
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腎毒性を持つ薬剤の使用(例:NSAIDs、アミノグリコシド系抗生物質など)
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腎後性(腎臓を通過した後の排出障害)
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尿路閉塞(前立腺肥大、腎結石、膀胱腫瘍など)
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膀胱機能障害(神経因性膀胱など)
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低値(BUN低下)の原因と解釈
一方で、BUNが基準値よりも低くなる原因は比較的少ないが、以下のような状況が挙げられる:
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重度の肝機能障害(アンモニアから尿素への変換が障害される)
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低タンパク質食の継続
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妊娠後期(血漿量増加によりBUNが希釈される)
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過剰な輸液治療後(血液希釈)
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蛋白異化の抑制状態(成長ホルモン欠乏症など)
これらの低値も、臨床的には肝機能障害や栄養状態の評価に役立つが、高値と比較して診断的意義はやや限定的である。
BUNとクレアチニン比の臨床的意義
BUN単独での評価には限界があり、腎機能の詳細な評価には血清クレアチニン値と合わせて評価する必要がある。特にBUN/クレアチニン比は以下のような指標として用いられる:
状態 | BUN/Cr比 | 意義 |
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正常範囲 | 約10〜20 | 正常腎機能 |
腎前性腎不全(脱水など) | >20 | 比較的クレアチニンの上昇が遅い |
腎性腎不全 | <10〜15 | 両者とも上昇するが、BUNはそれほど上がらない |
BUNとクレアチニンの両者を組み合わせることで、腎障害の原因が腎前性か腎性か、あるいは腎後性かを鑑別することができる。
臨床応用と検査の重要性
BUN検査は、慢性腎臓病(CKD)のスクリーニングや経過観察、入院患者の脱水評価、肝硬変患者の代謝状態評価、消化管出血の有無のスクリーニングなど、多岐にわたる臨床場面で使用されている。特に、BUNは脱水の指標として非常に敏感であり、高齢者や小児のような水分バランスの乱れやすい群において、BUNのモニタリングは不可欠である。
また、腎機能障害のある患者においては、薬物の用量調整にもBUNの値が考慮されることがあり、薬物動態の安全性確保にも寄与する。
注意点と限界
BUNは腎機能の評価において有用であるが、いくつかの注意点が存在する:
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BUNは腎外因子の影響を受けやすい(例:高タンパク食、ステロイド使用)
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筋肉量や年齢の影響を受けにくいが、クレアチニンほど腎機能に特異的ではない
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肝障害ではBUNは低値を示すため、腎機能を過小評価する可能性がある
したがって、BUNの評価はあくまで他の検査結果や臨床所見と組み合わせて行う必要がある。
結論と展望
血中尿素窒素(BUN)検査は、腎機能をはじめとする全身状態を簡便に評価するための基本的かつ有用な検査である。単独では完全な診断指標とはならないものの、クレアチニンや電解質、尿検査などと組み合わせることで、病態の早期発見や経過管理に大きく貢献する。今後、AIを用いた予測アルゴリズムや患者ごとのパーソナライズド医療が進展する中でも、BUNは引き続き臨床の第一線で活躍する検査項目の一つとして位置づけられるだろう。
参考文献
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日本腎臓学会. 「CKD診療ガイドライン2023」
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日本臨床検査医学会. 「臨床検査ガイド2022」
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Burtis CA, Ashwood ER, Bruns DE. Tietz Textbook of Clinical Chemistry and Molecular Diagnostics, 6th ed. Elsevier; 2018.
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上村直人ほか. 「血中尿素窒素とクレアチニンの比率の臨床的意義」臨床検査, 2017; 61(10): 1012–1018.
必要であれば、尿素サイクルや腎機能評価に関連する図解も提供可能である。