はじめに
扁桃腺(扁桃)の摘出、通称「扁桃摘出術」は、扁桃腺が繰り返し炎症を起こす、または健康に悪影響を及ぼす場合に行われる手術です。扁桃腺は喉の両側に位置し、免疫系の一部として細菌やウイルスに対する防御機能を担っています。しかし、扁桃腺が頻繁に感染し、生活に支障をきたすような場合、手術でその摘出を考慮することがあります。この記事では、扁桃腺を摘出するべきタイミングとその理由について、医学的視点から詳しく解説します。
扁桃腺摘出の理由
扁桃腺摘出術が必要とされる理由はいくつかあります。以下に主なものを挙げます。
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慢性扁桃炎
慢性的に扁桃腺が炎症を起こしている場合、繰り返しの炎症が免疫系に負担をかけることがあります。特に、扁桃腺の腫れや痛みが日常生活に支障をきたす場合や、薬での治療が効果を示さない場合には、手術が検討されます。慢性扁桃炎は、扁桃腺が細菌やウイルスに対する過剰な反応を示し続けることで引き起こされます。 -
扁桃腺周囲膿瘍(膿瘍の形成)
扁桃腺が感染し、膿が溜まることがあります。これを「扁桃腺周囲膿瘍」と呼びます。膿瘍は喉の痛みや腫れを引き起こし、さらに感染が広がるリスクがあります。膿瘍が頻繁に発生する場合、扁桃腺の摘出が勧められることがあります。 -
頻繁な扁桃炎
扁桃腺が繰り返し炎症を起こす場合、特に年間に7回以上、または2年間で合計5回以上の扁桃炎を繰り返す場合、手術が適応となることがあります。このような頻度での扁桃炎は、生活の質を大きく低下させる可能性があるため、摘出術が一つの解決策となります。 -
睡眠時無呼吸症候群
扁桃腺が過剰に腫れている場合、気道を塞いでしまうことがあります。これにより、特に子供においては睡眠時無呼吸症候群を引き起こすことがあります。無呼吸状態が続くと、夜間の呼吸困難や睡眠の質の低下が生じ、最終的には健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。 -
扁桃腺の腫瘍や悪性腫瘍の可能性
扁桃腺に腫瘍が発生することは稀ですが、まれに悪性腫瘍が発生することがあります。これらの場合、扁桃腺摘出が癌の早期発見と治療の一環として行われることがあります。特に、扁桃腺に腫れや変色、痛みが長期間続く場合は、悪性の可能性が考慮され、精密検査が推奨されます。
手術のタイミングと適応
扁桃腺摘出の手術を決定するタイミングは、患者の症状、健康状態、生活の質に基づいて決まります。以下は、手術が適応される具体的な状況です。
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慢性の扁桃炎
慢性扁桃炎が続く場合、薬物治療や生活習慣の改善では効果が不十分な場合があります。特に、喉の痛みや腫れが生活に支障をきたす場合は、摘出を考慮することがあります。 -
繰り返しの扁桃炎
年に何度も扁桃炎を繰り返す場合、特に成人で年間に4回以上、子供では7回以上発症する場合、手術が検討されます。扁桃炎の頻度が高くなると、免疫機能の低下や他の合併症を引き起こすリスクが増えるため、早期の手術が勧められます。 -
合併症の予防
扁桃腺周囲膿瘍や睡眠時無呼吸症候群が発生した場合、これらの合併症を予防するために手術が推奨されることがあります。無呼吸症候群による心血管系への負担や、膿瘍による感染拡大を防ぐためにも、摘出が行われることがあります。 -
悪性腫瘍の疑い
扁桃腺に異常を感じたり、長期間にわたり腫れや痛みが続く場合には、悪性腫瘍の可能性を排除するために摘出が行われることがあります。悪性腫瘍が確認された場合、手術によって癌の進行を防ぐための重要な治療となります。
手術のリスクと回復
扁桃腺摘出術は一般的に安全な手術ですが、他の手術と同様に一定のリスクがあります。主なリスクとしては、出血、感染、麻酔に対する反応、そして術後の喉の痛みや違和感が挙げられます。また、手術後の回復には数日から数週間かかることがあり、術後のケアとして適切な安静と水分補給が必要です。
術後の生活
手術後、患者は一時的に喉の痛みを感じることがありますが、痛みは通常数日以内に軽減します。術後は、硬い食べ物や刺激の強い食べ物を避け、柔らかい食事を摂ることが推奨されます。また、手術後は体力の回復に時間がかかることがあるため、無理をせず安静に過ごすことが重要です。
まとめ
扁桃腺摘出術は、繰り返し扁桃炎を発症する、またはその他の健康問題を引き起こす場合に有効な治療法となります。手術を受けるべきかどうかの判断は、医師と相談の上、患者の症状やライフスタイルを考慮して決定されます。手術にはリスクも伴いますが、適切なタイミングで行うことで、長期的には健康状態の改善や生活の質の向上が期待できます。

