世界の中でも野生生物の保護において際立った成果を上げている国々は、単に保護区を設けるだけでなく、持続可能な開発、教育、先進的な法律制度、地元住民の協力など、多角的なアプローチを採用しています。これらの国々は、急速に進む都市化、森林破壊、密猟、気候変動などの脅威にもかかわらず、豊かな生態系を守り続けており、まさに「自然との共生」のモデルケースです。以下に、野生生物の保全において世界的に評価の高い10カ国を紹介します。
コスタリカ
中米に位置するコスタリカは、国土の約26%が国立公園や自然保護区として保全されています。さらに再生可能エネルギーの使用率が非常に高く、森林の再生プログラムが成功している数少ない国の一つです。政府は「環境を守ることが経済を発展させる」との信念のもと、エコツーリズムを国家戦略に組み込んでおり、その結果、観光収入と自然保護の両立が実現されています。

ケニア
アフリカの代表的なサファリ観光地として知られるケニアは、野生動物の象徴的な存在であるゾウ、ライオン、キリンなどを含む多様な生態系を保護しています。国立公園や保護区が多数存在し、密猟対策として地域住民のパートナーシップを積極的に活用。マサイマラ国立保護区などでは、地域の部族と連携した野生動物保護活動が国際的にも高く評価されています。
ブータン
ヒマラヤ山脈に位置するブータンは、「国民総幸福量(GNH)」の哲学に基づき、自然との調和を重視した国家運営を行っています。国土の70%以上が森林に覆われ、憲法で最低でも60%の森林被覆率を維持することが義務づけられています。また、すべての野生動物は法律により保護されており、狩猟は全面的に禁止されています。
ノルウェー
北欧の環境保護先進国であるノルウェーは、極北の野生生物、海洋生態系、渡り鳥の保護において世界をリードしています。国家規模で持続可能な漁業と森林管理を推進し、また生物多様性保全のための長期国家戦略も整備されています。国民の環境意識も高く、学校教育の段階から自然保護の重要性が強調されています。
ニュージーランド
ニュージーランドは独自の進化を遂げた固有種(キウイ、トゥアタラ、カカポなど)を多数有しており、それらを保護するための活動が極めて盛んです。特に外来種の駆除と在来種の保護に重点を置き、政府と非営利団体が連携して「捕食者のいない2050年計画(Predator Free 2050)」を進行中です。これは全世界からも注目されている壮大な取り組みです。
カナダ
カナダは世界で2番目に広大な国土を有し、多様な生態系(ツンドラ、タイガ、山岳、草原、海岸など)を含んでいます。国立公園の管理体制が非常に整っており、「カナダ公園庁(Parks Canada)」が運営する野生生物保護プログラムは、科学的データと先住民の伝統知識を融合した先進的な手法です。ホッキョクグマ、カリブー、グリズリーなどの大型動物保護でも高い成果を上げています。
タンザニア
ケニアと同様に、サファリの聖地として知られるタンザニアは、セレンゲティ国立公園やンゴロンゴロ自然保護区など世界遺産にも登録された豊かな生態系を有しています。ワイルドライフマネジメントにおいて政府の関与が強く、近年では密猟防止にドローンやAIを活用するなど、技術革新も積極的に導入されています。
フィンランド
フィンランドは、森林の保護と再生において世界最高レベルの管理体制を持つ国の一つです。国土の70%以上が森林に覆われており、そのほとんどが持続可能な形で利用・保全されています。オオカミ、ヒグマ、リンクス(ユーラシアオオヤマネコ)などの捕食動物も、適切な科学的調査と法制度により管理・保護されています。
オーストラリア
オーストラリアは、世界最大級の固有種保有国であり、その生態系は他の大陸とは大きく異なります。カンガルー、コアラ、タスマニアデビルなど、オーストラリアにしか生息しない動物たちの保護は、国家の最優先事項の一つです。また、世界最大のサンゴ礁であるグレートバリアリーフの保全にも国家レベルでの対応が進められており、気候変動との闘いの最前線にあります。
インド
13億人以上の人口を抱えるインドにおいても、野生生物の保護に対する取り組みは非常に真剣です。トラ保護プロジェクト「Project Tiger」などに代表される政府主導のプログラムは成果を挙げており、近年ではトラの個体数が回復傾向にあります。また、多数の国立公園と自然保護区が整備され、ヒョウ、ゾウ、ガウル(インド野牛)などが保護の対象となっています。
各国の主な保護データ比較表
国名 | 森林被覆率(%) | 国土に占める保護区域(%) | 主な保護動物 | 特色 |
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コスタリカ | 約52 | 約26 | ナマケモノ、ジャガー、オオハシ | 環境教育とエコツーリズム |
ケニア | 約7 | 約8 | ライオン、ゾウ、キリン | サファリ観光と地域共同体の協力 |
ブータン | 約70 | 約51 | レッサーパンダ、ユキヒョウ | GNH哲学に基づく自然保全 |
ノルウェー | 約33 | 約17 | トナカイ、ホッキョクギツネ | 氷海生物や渡り鳥の保護 |
ニュージーランド | 約38 | 約30 | キウイ、カカポ、トゥアタラ | 外来種駆除と在来種回復 |
カナダ | 約38 | 約11 | グリズリー、カリブー、オオヤマネコ | 先住民との協働による管理 |
タンザニア | 約33 | 約38 | ヒョウ、ゾウ、ヌー | 世界遺産級の生態系の保護 |
フィンランド | 約73 | 約17 | ヒグマ、リンクス、オオカミ | 森林管理の国際モデル |
オーストラリア | 約17 | 約20 | コアラ、カンガルー、タスマニアデビル | 固有種の保護と火災対策 |
インド | 約24 | 約5 | トラ、ゾウ、ガウル | 密猟対策と保護区拡大戦略 |
これらの国々の共通点は、単なる自然保護ではなく、持続可能な経済発展、地域社会との共存、最新技術の活用、法制度の整備など、多様な手法を複合的に取り入れている点にあります。野生動物の未来を守るためには、国家レベルでの意思決定だけでなく、個人の意識や行動も大きな影響を与えます。今後は、これらの優れた国々の取り組みを他国が積極的に学び、協力体制を築くことが、地球規模での生物多様性保護につながる鍵となるでしょう。
参考文献:
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World Wildlife Fund (WWF)
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United Nations Environment Programme (UNEP)
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International Union for Conservation of Nature (IUCN)
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各国環境省公式サイト
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Global Forest Watch (GFW)