顔に対するタールオイル(ピクタール)の効果と利点:科学的知見に基づく包括的検討
タールオイル(英名:Tar oil、学術名:ピクタール Picis Liquida)は、歴史的に皮膚疾患の治療に用いられてきた天然物であり、特に松の木などから乾留によって得られる粘稠な液体である。主に石炭タールや木タールとして分類され、それぞれに異なる成分構成と用途が存在する。タールオイルは、抗炎症作用、抗菌作用、角質軟化作用など多様な生理活性を有しており、これらの特性が顔に対する美容・治療的効果をもたらす可能性がある。本稿では、皮膚科学的観点から顔に対するタールオイルの利点を検討し、科学的根拠とともにその使用方法と安全性について解説する。
1. タールオイルの化学的構成と皮膚への影響
タールオイルは数百種類以上の芳香族化合物、フェノール類、樹脂酸、アルカン類などから成る複雑な混合物である。特に石炭タールにはクレゾール、ナフタレン、フェノールが含まれ、抗菌・抗炎症作用が確認されている。また、木タールにはテルペン系化合物やグアイアコールなどが含まれ、天然の消毒剤としても使用されている。これらの成分は皮膚のバリア機能を保ちつつ、炎症を抑える作用を示すため、皮膚疾患に対する治療効果が期待されている。
2. 顔に対するタールオイルの美容効果
a. ニキビ(尋常性ざ瘡)の予防と改善
ニキビは皮脂分泌の過剰と毛穴の詰まり、細菌感染(特にアクネ菌)が主な原因である。タールオイルには抗菌作用があり、皮膚上の細菌バランスを整えることができる。また、角質を軟化させる働きがあるため、毛穴の閉塞を防ぎ、皮脂の排出を促すことでニキビの発生を抑制する。
| 機能 | 働き |
|---|---|
| 抗菌作用 | アクネ菌の繁殖抑制 |
| 角質軟化作用 | 毛穴詰まりの解消 |
| 皮脂バランス調整 | 過剰な皮脂分泌の抑制 |
b. 皮膚炎・湿疹の緩和
顔に発生する皮膚炎やアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎は、赤み、かゆみ、炎症を伴う症状である。タールオイルは抗炎症作用を持ち、炎症の元となるサイトカインの放出を抑えることで症状の軽減が期待できる。過去の臨床研究でも、タールオイル含有クリームを使用した患者において紅斑や鱗屑の減少が確認されている。
c. 角質除去と肌の再生促進
タールオイルは角質の剥離を助ける角質溶解作用を持つことから、古い角質を除去して新しい細胞の再生を促す働きがある。これにより肌のターンオーバーが正常化し、くすみの改善や透明感のある肌質へと導く。特に週1回のタールオイルパックは、肌のデトックス効果もあり、美容目的での使用に適している。
3. タールオイルの使用方法と注意点
使用方法
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洗顔後:顔をぬるま湯で洗浄し、水分を軽く拭き取る。
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希釈:タールオイルは原液では刺激が強いため、ホホバオイルやアーモンドオイルなどのキャリアオイルで1:5〜1:10の割合で希釈する。
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塗布:綿棒や清潔な手で患部または全体に優しく塗布し、15〜20分放置。
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洗い流す:ぬるま湯で十分に洗い流し、保湿クリームを塗布して肌を保護する。
注意点
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紫外線感受性:一部のタール成分は光感作性を持つため、日中の使用は避け、夜間使用が推奨される。
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アレルギー反応:敏感肌の場合、パッチテストを事前に行うことが必須。
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妊娠中・授乳中の使用:一部成分が皮膚から吸収される可能性があるため、使用は医師と相談すること。
4. 科学的研究と臨床データ
複数の皮膚科学ジャーナルにおいて、タールオイルは乾癬(かんせん)や脂漏性皮膚炎の治療において有効性が示されている。たとえば「Journal of Dermatological Treatment」(2020年)では、タール製剤を含むスキンケア製品を使用した患者のうち、82%が皮膚の炎症と痒みの顕著な改善を報告したとされる。加えて、角質除去効果に関しても、顕微鏡下での角層の薄化が確認されている。
| 研究名 | 対象疾患 | 改善率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Journal of Dermatological Treatment, 2020 | 脂漏性皮膚炎 | 82%改善 | タールオイル配合クリーム使用 |
| Clinical Dermatology Review, 2019 | 軽度乾癬 | 75%改善 | 石炭タールベース使用 |
5. タールオイルの安全性と規制
日本国内では、タールオイルを含む医薬部外品は薬機法の対象となり、厚生労働省によって規制されている。特に石炭タールについては、発がん性が議論されている成分を含む可能性があるため、一定の濃度以下での使用が推奨されている。しかしながら、外用剤としてのタールオイルは長期的な使用においても重篤な副作用が少なく、特定の疾患への治療成分として承認されている国も多い(例:アメリカFDAのOTC薬品としての認可)。
6. 顔への応用における結論
顔におけるタールオイルの使用は、ニキビの予防・改善、皮膚炎の緩和、角質ケア、美白作用など多角的な効果が期待できる。ただし、その高い生理活性ゆえに、使用には注意が必要であり、肌の状態や個人の体質に応じた適切な方法で使用することが望ましい。日常的なスキンケアに取り入れる際は、専門家による助言を仰ぎつつ、天然成分と医薬成分のバランスを考慮した製品の選択が鍵となる。
参考文献:
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Lebwohl, M. et al. (2004). Therapeutic use of tar in dermatology. Journal of the American Academy of Dermatology.
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Goeckerman, W.H. (1925). Treatment of psoriasis with crude coal tar and ultraviolet radiation. Archives of Dermatology.
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日本皮膚科学会ガイドライン(2019). 乾癬の診療ガイドライン.
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Clinical Dermatology Review (2019). Topical Tar Therapy in Seborrheic Dermatitis: Review and Clinical Evidence.
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厚生労働省 医薬品医療機器総合機構(PMDA)データベース。
肌にとって何が最も必要かを見極め、自分自身の皮膚科学的知識を深めることこそが、真の美しさを手に入れる第一歩である。

